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東京高等裁判所 昭和53年(ラ)1359号 決定 1979年2月28日

抗告人

春山忠一こと

金漢権

主文

原決定を取り消す。

本件競落を許さない。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙のとおりである。

原審記録によれば、原裁判所は、債権者金子泰寿の申立に基づき、原決定添付物件目録一記載の建物につき、強制競売手続開始決定をなし、次いで債権者北陶商事代表者金子良雄こと金子良雄の申立に基づき、右建物の敷地である原決定添付物件目録二記載の土地について、同じく強制競売手続開始決定をなした後、両事件を併合したうえで入札払を命じ、昭和五二年三月一〇日、第一回入札期日を同年四月一四日午後一時、最低入札価額を右建物金二一八万円、右土地金四一四万円、合計金六三二万として一括入札に付する旨公告したところ、右期日に入札申出人がなかつたので、第二回入札期日を同年六月二三日午後一時と指定し、最低入札価額をほぼ一割低減して、新入札期日を開いたが、入札申出がなく、以後数回の新入札期日を繰り返し、その都度最低入札価額を約一割宛低減した末、昭和五三年一〇月二三日、新入札期日同年一一月一七日午後一時、最低入札価額を、右建物金九三万九、〇〇〇円、右土地金一七九万円、合計金二七二万九、〇〇〇円(前回の約一割減)と定めて公告したが、同期日にも入札申出人がなかつたため、同年一一月二二日、更に新入札期日同年一二月一五日午後一時、(競落期日同月一九日午後一時)、最低入札価額を、右建物金八四万五、〇〇〇円、右土地金六一万円、合計金一四五万五、〇〇〇円と定めて公告した結果、右入札期日に入札申出があり、右競落期日において、金一五〇万円(右建物につき八八万円、右土地につき六二万円)の最高価入札人知久貞信に対して、競落許可決定を言い渡したことが認められる。

右認定事実によれば、最終回の入札期日における最低入札価額は、右建物については前回の価額の約一割減であるが、右土地については、前回の価額より六割五分強も低減し(前回の価額金一七九万円から、その約一割である金一八万円を差引く際に、誤つて一〇〇万円の単位数を見落し、七九万円から一八万円を差引いた結果ではないかと推察されうる)たため、合計額において前回の価額より四割六分強を低減していることが明らかである。

ところで、民事訴訟法は、入札払い手続について準用される第六七〇条第一項において、「競売期日ニ於テ許ス可キ競買価額ノ申出ナキトキハ第六四九条第一項ノ規定ヲ害セサル限リハ裁判所ハ其意見ヲ以テ最低競売価額ヲ相当ニ低減シ……」と定め、もつてその低減の程度については、裁判所の自由裁量に一任している。しかし、その裁量による低減は、競売手続の進捗程度と利害関係人の利害を衡量して、客観的に相当と認められる限度にとどめられるべきであつて、格別合理的理由もないのに、不相当に低減することは裁量の範囲を越え、違法というべきである。

これを本件についてみるに、原裁判所は第一回の入札期日から昭和五三年一一月一七日午後一時の入札期日に至る間、最低入札価額をほゞ一割宛低減してきていたのに、最終回の入札期日に至り、前回に比し最低入札価額を四割六分以上も低減しているのであつて、一件記録上これ程に低減すべき合理的理由は全く見当らない。

してみれば、原裁判所が昭和五三年一一月二二日になした最終回の入札期日の公告において、最低入札価額を土地建物につき合計金一四五万五、〇〇〇円として掲載したことは違法であり、適法な最低入札価額の記載がなかつたものというの外なく、同法第七〇二条、第六五八条第六号に違反し、第六七二条第五号所定の事由に該当することが明らかである。

よつて、同法第四一四条、第三八六条を適用して、原決定を取り消し、本件競落を許さないこととして、主文のとおり決定する。

(森綱郎 新田圭一 奈良次郎)

別紙<省略>

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